賃貸管理コラム
手間のかからない不動産投資として、アパートやマンションを専門会社に一棟貸しして入居者に転貸するサブリース方式が人気です。
サブリース方式では、契約相手がサブリース会社だけのため、入居者ごとに発生する契約や賃料回収の手間がありません。
しかし、多くのサブリース商品では「最低保証賃料」「30年一括借り上げ」などがうたわれているため、ずっと同じ金額の家賃をもらえると思い込んでいるオーナーも少なくありません。
しかし、サブリース会社から賃料減額の要求をされることは少なからずあります。要求があると完全に拒否することは難しく、対処方法を知っておかなれけば、納得いかない契約を結ばれることもあるかもしれません。
本記事では、サブリースの賃料減額を拒否するのが難しい理由とともに、実際の対処方法を説明します。
サブリースでは、サブリース会社が契約時に賃料を予測し、そのシミュレーションに基づいた一定額を「最低保証賃料」として設定します。
一般的に、オーナーが受け取る家賃は全体の家賃収入の80~90%で設定されます。空室や滞納が発生した場合でも、最低保証賃料は下回らないように取り決めます。
しかし実際には、バブル崩壊やリーマンショックなどの不況時に、この最低保証賃料の引き下げを要求するサブリース会社が多く発生しました。
オーナーはこういったときに、賃料減額を拒否することが難しいです。その理由を解説します。
難しい理由のひとつに、借地借家法の存在があります。
借地借家法は、立場の弱い入居者を守る観点で作られた法律です。サブリース契約においては、オーナーが貸主、サブリース会社が借主です。そのため、借主であるサブリース会社にとって有利な条文が多くあります。
その借地借家法第32条では、建物の賃料が経済事情の変動によりほかの賃料に比べ不相応になったときは、当事者はその増減を請求できる旨を規定しています。
この条文の存在により、原則オーナーは借主からの賃料減額に対して、交渉する必要があります。
多くのサブリース契約では、最低保証賃料の見直しを2年ごとに行う旨が記載されています。オーナーはその契約書の条文をよしとして契約を締結したことから、拒否するのは難しいでしょう。
実際、2003年10月21日の最高裁による判決があります。申立人であるオーナーは、バブル絶世期の昭和63年に、サブリース会社のすすめで高層ビルを建てました。しかし、バブル崩壊後の経済の悪化により、平成6年~11年にかけて計4回の賃料減額要求を行われたことを不服として申し立てました。
それに対して、「サブリース契約は借地借家法が適用される賃貸借契約である」という方針が示されました。つまり、サブリース会社の賃料減額は妥当という判断がされたということです。
特約で「サブリース会社からの賃料減額をしないこと」を決めていた場合はどうなるのでしょうか。
残念ながらこの場合も、オーナーは賃料減額の要求に答える必要があります。
法律には、以下の2種類あります。
先ほど紹介した借地借家法の第32条は強行法規です。そのため、たとえ賃料を減額しないという取り決めをしたとしても、無効となります。
不動産のプロであるサブリース会社は、もちろんこの事実を知っています。そのため悪質な場合には、あえてこの条文を入れることでオーナーを安心させ、契約締結をすることがあります。
実際にサブリース会社から賃料減額を要求された場合、オーナーはどう対応するのがよいのでしょうか。具体的に解説します。
サブリース会社から賃料減額請求があったときに、どんな条件でもオーナーが受け入れる必要があるかというと、実はそうではありません。
先ほどの第32条には賃料減額における条件において、「経済事情の変動により」「ほかの賃料に比べ不相応になったとき」ということが定められています。
2003年の最高裁判決でも、以下の2点からサブリース会社の勝訴を認めました。
しかし、平成20年の千葉県での判決では、サブリース会社による契約時の賃料シミュレーションが甘かったことに注目。それを理由に、サブリース会社の赤字は自業自得として、賃料減額を認めないという結論を出しています。
参考:国土交通省「継続賃料にかかる鑑定評価上の課題整理」p.50
そのことから、オーナーはサブリース会社の提示する減額案が、ほかの賃料に比べ相応なのかを調べてみましょう。不相応な場合は、それを根拠として賃料減額に合意しないことも可能です。
必要な場合は、弁護士など法律の専門家に相談しましょう。
不動産関係に関する法律においては、オーナーよりサブリース会社のほうが詳しく、経験も豊富です。賃料減額に関する交渉経験も、サブリース会社のほうが勝っています。
オーナーだけで交渉すると不利な交渉になってしまうおそれがあります。その後、解約することも視野に入れているなら、早めに弁護士に相談しましょう。
サブリース会社との交渉が折り合わない場合、最終的に裁判にまでなる可能性があります。サブリース会社とのやりとりは、すべて証拠に残しておきましょう。
オーナーは、賃料減額を理由に解約できるのでしょうか。
オーナーからの解約に関しても借地借家法第28条に定められており、原則オーナーからは正当事由がなければ解約できません。
正当事由とは、オーナーがその賃貸借契約を解約するのが合理的と判断される正当な理由のことです。具体的には、以下のようなものが当てはまります。
また、たとえばサブリース会社がオーナーに支払う家賃を相当な月数延滞しているなど、信頼関係が破壊されたと判断できる証拠を複数用意できれば、正当事由にできます。
もし正当事由が足りないと判断される場合は、立退料など財産上の給付をすることで正当事由の代わりにできます。サブリース会社は当然これを理解しているため、立退料を請求されるでしょう。
サブリースでは、賃料減額も含めて、賃料に関するトラブルが発生するおそれがあります。
賃料減額に合意していないにも関わらず、サブリース会社が勝手に提示してきた賃料減額案の賃料しか振り込まないというトラブルがあります。
いくら賃料減額請求権があったとしても、合意なく振り込む賃料を減額するのは違反です。
たとえば、100万円の賃料だったのにも関わらず、勝手に80万円に減額した賃料を振り込まれるケースがあります。この場合、残額の20万円は賃料滞納とみなされます。
オーナーは残額について支払いを請求し、支払ってもらえないようであれば契約書に従い解除することが可能です。
ただし、一般的な裁判所の判例では、解除に足る信頼関係の破壊は、賃料の3カ月分の滞納とすることが多いです。賃料の一部不払いという形だけでは、合理的な解除条件とみなされないことがあります。そのため、信頼関係が破壊されたとする、その他の根拠も集めておくとよいでしょう。
リーマンショックなどの大不況に陥ると、会社規模の小さいサブリース会社は倒産してしまいます。このとき、本来オーナーがもらえた賃料が、もらえなくなってしまうというトラブルが発生します。
倒産した会社に現金が残っていない場合はもらえず、さらに倒産を知らない入居者がサブリース会社に振り込み続けてしまうということが発生します。
倒産間近の会社となると、賃料の滞納などが発生しがちです。そういった状況が発生した場合には、弁護士と相談しながら、サブリース会社との契約解除手続きの準備をしておきましょう。さらに、急に倒産した場合にスムーズに契約を引き継げるよう、入居者とコニュニケーションを取れる関係を築いておきましょう。
賃料滞納や減額などのトラブルを防ぐためには、なによりも実績が豊富で信頼のできるサブリース会社と契約を結ぶことが重要です。
サブリース会社と信頼関係を結ぶことができれば、勝手に減額した賃料を振り込まれることはありません。さらに、実績が豊富であれば倒産するリスクは低いでしょう。
今からサブリースを始めることを検討している方は、不動産投資に関する知識を身に着けるとともに、まずはサブリース会社に相談してみましょう。
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