賃貸管理コラム
アパートやマンションなどの賃貸経営の形態として、サブリースという選択肢があります。
サブリース契約は、以下2つの賃貸借契約によって構成されます。
マスターリース契約と入居者との賃貸借契約も含めたサブリース事業を広義的に「サブリース契約」と呼ぶことがあります。
マスターリース契約においてのトラブルは、サブリース事業の信用性をゆるがすような社会問題になりました。
本記事では、そんなサブリース契約の落とし穴について、対策や成功のポイントと合わせて紹介します。その中で、サブリース事業を適正化するためのサブリース新法についても確認してみましょう。
社会的にも問題となったサブリースのトラブルについて、代表的な3つの落とし穴を紹介します。
サブリース事業とは、大家から賃貸物件を一括して借り上げたサブリース事業者が、実質的に物件を管理し入居者を募集して賃貸事業を行うものです。
空室であっても、満室時家賃収入の約80~90%を「一括借り上げ家賃」として、業者から大家に支払われる仕組みです。
マスターリース契約の契約期間は10〜30年間など長期の契約期間を設定することが多いですが、契約当初の家賃を長期間約束するものではありません。
契約書には約定家賃が記載されていますが、築年数が経過し入居率が悪化すると、サブリース事業者の収益性が悪化します。つまり、空室分の家賃がサブリース事業者にとっては大きな負担です。
そのため、サブリース事業者は大家に対して「家賃の減額請求」をしてきます。
減額請求に大家が応じない場合、サブリース事業者にはマスターリース契約の途中解約という手段があります。大家は減額請求に応じるか、マスターリース契約の途中解約か、どちらかを選択するしかなくなってしまいます。
このような問題が発生する理由として、住宅の賃貸借契約には「借地借家法」が適用されるということがあります。
借地借家法では、賃貸人(貸す側)よりも賃借人(借りる側)を保護する仕組みがあります。そのため、マスターリース契約でも同様に、賃貸人である大家よりも賃借人であるサブリース事業者が保護されるということです。
このように、サブリースは「家賃保証」という表現が使われることが多いですが、保証という安心感とは裏腹に家賃減額の請求をされるおそれがあります。そのため、長期にわたって一定の家賃収入を確実に見込めるものではないことを自覚しておきましょう。
前述したように、家賃減額請求に大家が応じない場合は、サブリース事業者からマスターリース契約の途中解約を求められることがあります。
反対に、大家からの途中解約は「借地借家法」により認められることはほとんどありません。
途中解約になった場合には、大家は以下のような手段で、入居者との契約関係を急いで整えなければなりません。
サブリース方式の賃貸事業が継続できない場合は、空室分の家賃収入がなくなり、これまでよりも家賃が減収するリスクがあります。
また、サブリース方式においては、管理業務はサブリース事業者が一括して行います。マスターリース契約の解約により、大家自ら管理するか、代わりの管理会社を早急に探す必要があります。
サブリース方式において、物件のリフォーム費用は大家が負担します。
しかし、入居者の募集を含めた、実質的な賃貸事業はサブリース事業者が行います。そのため、空室のリフォーム計画など入居促進に関わる業務の決済権は、サブリース事業者の主導で行われることが多いです。
大家は、サブリース事業者が提案するリフォーム計画に反対できる機会は少なく、そのまま実施されることがほとんどです。
アパートローンの借入が大きく返済比率が高い場合は、キャッシュフローが悪くなり、リフォーム費用の捻出に頭を悩ませることも多いです。
サブリースには「落とし穴」があることを説明しましたが、対策はあるのでしょうか。
サブリース事業におけるマスターリース契約は、通常の賃貸借契約と同様の形態です。
一方、家賃保証や契約解除に関する条項、維持保全に関する費用負担など、通常の賃貸借契約とは異なる文言もあります。
契約前に説明を受けた内容と異なる取り決めがないかなど、細部にわたって確認をすることが重要です。
具体的には次の項目に注意して確認しましょう。
大家がサブリース方式による賃貸事業を決断するまでには、サブリース事業者または関係する事業者からの勧誘を受けることが多いです。
勧誘の際に、ほとんど苦労せずに家賃収入が確保でき、面倒な管理はサブリース事業者任せである様子が描かれがちです。
しかし、サブリース事業者から受け取る家賃収入は、経過年数により減少するのが普通です。
シミュレーションで家賃設定が一定のままなど、リスク要因をまったく考慮していない場合は、信頼できないサブリース事業者といえるでしょう。
サブリース事業者は「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸管理業法)」に基づく、特定転貸事業者に該当します。
それと同時に、賃貸管理業を営む事業者でもあり、ほとんどの場合、賃貸管理業法が定める登録義務があります。
賃貸管理戸数が200戸以上の事業者は国土交通大臣の登録を受け、事務所ごとに「業務管理者」を設置することが義務づけられています。契約相手である事業者に、有資格者が存在するかどうかを確認することが重要です。
また、マスターリース契約の締結前には「重要事項に関する説明」を受けます。説明するのは「業務管理者」であることが望ましく、身分を確認したほうがよいでしょう。
業務管理者は、以下の資格や実務経験が要件となっています。
サブリースは「サブリース新法」の成立により、不適切な契約で大家が経営破綻に陥ることを防止できるようになりました。
サブリース新法が目指すサブリース事業の成功ポイントをみていきましょう。
「サブリース新法」とは、サブリース事業が抱えていた問題点を解消し、賃貸物件の大家が安心してサブリース方式の賃貸事業運営ができるように定められた、賃貸管理業法のことです。
賃貸管理業と特定転貸事業に対しての指導監督を、国土交通省が行います。
サブリース事業は落とし穴が多いですが、サブリース新法の施行によりサブリース事業が適正に行われるように変化してきました。
サブリース新法は2020年12月15日より施行されており、サブリース事業の健全な発展が図れるよう期待されています。また、今後も引き続き、大家保護のための施策が図られるでしょう。
サブリース新法の重要ポイントは5つあります。
サブリース事業者は、以下の項目について、広告上において大家に誤解を与えるような表現が禁止されました。
マスターリース契約の締結や契約解除にあたり、大家に対して故意に事実を隠す、または不実のことを告げることを禁止しました。
マスターリース契約の前に、重要事項に関する説明書を交付し説明することが義務づけられました。
さらに契約締結後は、契約内容を記載した書面(契約書)を交付することも義務づけられました。
サブリース事業者は自らの財産状況を記載した書類を事務所に備え付け、大家の求めにより閲覧させる義務があります。
契約を締結しようとしているマスターリース契約の内容が、サブリース新法が定める各種の規制に違反しているような場合、大家はもちろんのこと関係者の誰もが、国土交通大臣に申し出て、契約内容を是正させる制度が設けられました。
2020年12月より、サブリース事業の環境は大きく変わりました。
そのため、賃貸物件の大家にとってはサブリースが事業形態の有力な選択肢になったといえます。
このような理由からサブリースを希望する大家も少なくありません。
賃貸マンションやアパート経営は片手間でできる事業ではありません。入居者募集・契約管理・家賃管理・入居者対応・建物管理など、ある程度の知識やノウハウが必要です。空室対策を自ら立案するには、経験も必要でしょう。
サブリースは、大家が自ら経営に携わらなくとも、賃貸事業を続けられます。アパート経営に専念できない事情があるならば、有力な選択肢のひとつにしてよいでしょう。
サブリース事業は大手の不動産開発会社や不動産管理会社はもちろん、管理戸数の少ない小さな規模の管理会社でも行っています。
サブリース事業者にとっては、空室であっても家賃を支払いつづける義務があるので、一括借上げ家賃の設定は重要なポイントです。
空室リスクが小さいと判断できる物件は一括借上げ家賃が高く、大きいと判断される物件は家賃設定が低くなります。
サブリースを希望する場合には、まずは不動産管理会社に相談し、サブリースが可能かどうかの判断をしてもらいましょう。アパートの新築計画の際はもちろんのこと、すでに運営している賃貸物件をサブリースに切り替えることも可能です。
サブリースを検討するなら、信頼のおける宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士などが在籍する専門業者に相談することからスタートしましょう。
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